調査員のCrevette(くるべっと)です。
今回はファクトチェックシリーズの第二回目です。
金や貴金属の売買を行うお店のHomePageによく金の特徴が書かれております。その内容に
”金は王水にしか溶けない”
と記載されていることがあります。これが本当なのか調査をしました。
このブログの内容の動画も作成しています。
YouTubeはこちら↓
金とは?
別の記事で一度説明していますので違う内容を簡単に説明致します。
気になる方は↓もご確認下さい。
”金って、世界中から集めても国際基準プール約4杯分”って本当?
https://shr-fusion.com/fuct-checking002/
金属元素です。英語表記は、”Gold”でインドやネパールで使われるサンスクリット語の「輝く」という意味の単語が語源?とされております。
融点は約1064℃です。
特徴➀、展延性が最も高い金属元素でこの性質を利用して金箔が作られております。展延性とは物質が破断せずに柔軟に変形する限界の事です。
特徴②、青色の光を多く吸収し、それ以外は反射率が大きい為、黄金色に輝いています。
王水とは?
次は、王水について簡単に説明致します。
英語表記は、”aqua regia”で”aqua”が”水”で、”regia”が”王”という意味で”王の水”となりますが日本語は直訳そのままで”王水”と言います。
製造方法は、濃塩酸と濃硝酸を体積比3:1で混合すれば良いです。ちなみに濃塩酸,濃硝酸という名前では販売されておらず、塩酸,硝酸の名前で販売されております。メーカによって表記は若干異なりグレード名が名前の前に付いたり、密度が後ろに付いたり様々です。
試薬を購入すればおおよそ塩酸は36%前後、硝酸は60%以上でこれらを使用すれば問題ありません。
特徴として、酸化力が強く多くの金属を溶解させる事が可能です。
また、不安定で分解しやすい為、「使用時に製造する」と習いますが作り置きしても問題ない場合もあります。どのくらいの期間保存しても問題ないかは、保存方法や用途次第ですが金を溶解する時は多くの場合はメッキなど、かなり薄い(マイクロオーダー)物のはずなので一週間程度、保管した物でも全く問題はありません。
調査の経緯
他の調査で、”金は王水でしか溶けない”と記載されたものが幾つか見たのでGoogle検索にて”金は王水にしか溶けない”と検索して、運営元が個人ではないものを対象に5件に達するまで調査致しました。
結果、5件中4件がリサイクル業の会社のHomePageでした。2件は同じ会社が運営しておりました。
余談ですがバリュエンスジャパン㈱さんは東証グロース市場に上場しているバリュエンスホールディングス㈱さんの100%子会社です。
一件だけ、再度記載しますが”金が王水でしか溶けない”事が明記されています。
特に金やプラチナは、王水でしか溶かす事ができません。
※引用 熊本の質屋「質乃蔵」 金も溶かす「王水」が最強すぎる!どんなものでも溶かせるのか?
https://www.shichinokura.com/gold-kaitoriblog/gold-aquaregia/
という事で、この件が本当なのか調査しました。
金が溶けるとは?
金が溶けるとはどういう事か簡単に説明致します。金以外も含めて”溶ける”の定義を説明するとかなり複雑なので金に限定します。
まず、”真の溶液”になった状態です。これは溶けた物が液中に0.1nm前後のサイズで化合物イオンとして存在する状態です。
次は、”コロイド溶液”ですが溶けた物が電荷を帯びた1~100nm程度の微粒子で存在している状態です。
最後は”溶融”で、これだけ表現方法が違いますが単体で熱によって固体から液体になった状態です。他の二つは他の物質によってできる物です。
この記事内では王水により金がどうなっているかを基準として考えますので金を”真の溶液”にする事ができる液体を、”金を溶かす事ができる物”とします。
ただ、”コロイド溶液”は”真の溶液”の状態を経由して作るので立ち位置は微妙なところです。
調査方法
金を溶かす化学薬品を調査する方法です。”金を溶かす薬品”のように調査しても全く問題ないですが実際に何かに使用されている物の情報の方が間違いないと思われます。
方法としては製造現場で金を溶かす必要がある工程で使われる物を調査致します。
まず、金のウエットエッチングです。半導体や電子機器の製造時に化学薬品の腐食現象を利用して金を加工する事を言います。他、分析業務でも行います(不良品の半導体のシリコンチップに付いた金電極を剥離してシリコンチップが割れていないか調べる時など)。
次に、金の製錬についてです。鉱石から素材にするまでの工程の1つで金濃度を高めた精鉱から金を取出す工程です。
これらは、別途もう少し説明致します。
➀金のウエットエッチング
②金の製錬
金を溶かす化学薬品調査
金のウエットエッチング
ウエットエッチング工程
ウエットエッチング工程を前後の幾つかの工程を含めた簡略図にて説明致します(基板の断面図にて説明)。実際は、色々なパターンがあります。図は、一部の工程を省略しておりますのでご了承下さい。
➀成膜
基板に金を成膜します。方法は、メッキ,蒸着,スパッタリングなど様々です。実際は基盤の表面に様々な処理を行います。例えば、基盤が金属の場合は絶縁層を作ったりします。メッキの場合は、ストライクメッキと呼ばれる別の金属をメッキする事もあります。
②レジスト塗布
金の上にフォトレジストという物を塗布します。フォトレジストは光を照射する事で薬品による溶解性が変化します。今回は、光を照射すると溶解性が増すポジ型と呼ばれる物で説明致します。この逆でネガ型という物があります。図には書いておりませんがフォトレジストの溶剤を揮発させるプリベーク(プリキュア)という工程もあります。
③露光
フォトマスクという物を使ってフォトレジストを除去したい部分に光を照射します。黒い部分は光を通しません。光の種類は色々あります。例として、I線と呼ばれる365nmの波長の紫外線があります。
フォトマスクとフォトレジストに隙間がありますが間にレンズがあり集光してフォトレジストに照射します。隙間が無く接触させて行う方法もあります。
④現像
露光の工程で光を照射した部分を現像液で除去します。図には記載しておりませんが次のエッチングの前にフォトレジストを硬化するポストベーク(ポストキュア)と言う工程があります。これを行わないとエッチングの工程でフォトレジストが剥離したり溶けたりしてしまいます。
⑤エッチング
エッチング液はフォトレジストを溶かしにくく、金を良く溶かす物を選択している為、フォトレジストが無い部分の金が溶けてなくなります。
⑥レジスト除去
レジスト剥離液を使ってフォトレジストを除去して完成です。
金のエッチング液
※参考:THE CHEMICAL TIMES 2004 No.3(通巻193号)(https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/backno5_pdf53.pdf)
金のエッチング液(エッチャントとも言う)の例として、関東化学㈱社製のAURUMU(オーラム)の300シリーズにて説明致します。
ヨウ素系のエッチング液です。基本組成は、
ヨウ素+ヨウ化カリウム水溶液(又はヨウ化アンモニウム水溶液)+有機添加剤
です。ヨウ素が水に溶け辛いのでヨウ化カリウム水溶液に混合しております。
ちなみに一般的にヨウ素液と言えば、ヨウ化カリウム水溶液にヨウ素を混合した物を言います。
有機添加剤は、液の濡れ性改善(接触角を下げる)や液の安定性(組成変化,エッチング性能変化を減らす)を高くする為の物です。
このエッチング液に金を加えると”テトラヨージド金(Ⅲ)酸イオン”となって溶解します。
ということで・・・
事がわかりました。
金の製錬
金が鉱石から素材になるまでの工程
次は、金の製錬についてですが、これが金を溶かす事との関連性がイメージし辛いと思いますので金が金鉱石から素材になるまでの工程を簡単に説明致します。
砂金や硫化物鉱石から金の素材にする方法もあるのでご注意下さい。
➀採鉱
鉱石を火薬(ダイナマイト)などで破砕
②選鉱
更に細かく粉砕して鉱石鉱物を分離して濃度を高めて精鉱にします。
③製錬
精鉱から金を取出します。
最後に、目的に沿った形に加工された素材にします。
製錬の後に、加工という工程を加えても良いと思います。
金の製錬工程
金の製錬方法は、幾つかありますがシアン化法の工程を簡単に説明致します。
➀浸出
精鉱に空気を吹込みながらシアン化ナトリウム液を加え溶解させます。この時点で金はシアン化ナトリウム液で溶かせる事がわかります。
②ろ過
ろ過を複数回行い残滓(ざんし)を取除き金が溶解した液を回収します。
③脱酸素
微粒子を更に細かいフィルターで除去し真空装置で酸素を取除きます。
④置換
亜鉛粉末を加えて金を置換させ沈殿させます。
最後に、脱水後に熔融して地金を得ます。
浸出工程
※参考:JOGMEC 新しい金回収技術 CIP (https://mric.jogmec.go.jp/public/report/1988-04/No12_jp.pdf)
浸出の工程(シアン化法)で使用される溶液の基本組成を説明致します。
シアン化ナトリウム水溶液+酸素
です。これに金を加えると”ジシアノ金(Ⅰ)酸イオン”となって溶解します。
という事で
事がわかりました。ちなみに、シアン化カリウム水溶液にも金は溶けます。
まとめ
金は、王水にしか溶けない?の検証結果です。
Google検索にて金は王水にしか溶けない事が記載されたHomePageが複数あり、5社中4社がリサイクル業でした。
この内容の検証として金のエッチング液を調査したところ、ヨウ素系の”AURUM”という化学薬品が販売されておりました。
また、金の製錬の手法に”シアン化法”という物がありシアン系の化学薬品が使用されておりました。これは1888年にイギリスで特許として発表されておりますので最近、王水以外の物が発見されたので更新されずに”金は王水でしか溶けない”事がHomePageに残っているわけではありません。
という事で
だとわかりました。
今回調査した資料には”チオ尿素”による金の製錬方法の説明や塩酸を使用した電解剥離、他にも複数記載されておりました。
否定的コメント予測
否定的コメント予測です。
最後に・・・
私は、確か高校で”金は王水にしか溶けない”と教わった記憶がありますので、HomePage上に間違った情報が多くあるのだと思います。
まとめに記載した通り、シアン化法は100年以上前からあるので流石に学校では正しい事を教えて欲しいですね。
以上です。
コメント